局所麻酔のリスク

ペリっ子なーす麻酔講座

 先輩看護師は新人看護師によくこんな事を言っていた

 「人いないから、局所麻酔の手術の外回りサブなしでついて」

 よくこんな事が言えるなと常々思っていた。

 全身麻酔の手術と異なり、局所麻酔手術で急変した時は、まず外回り看護師が対応しなければいけない。しかし、新人看護師に急変対応できるでしょうか?
 何故急変したのかも分からず、慌てふためいて、何もできなかったと自責の念を抱いて傷つくだけです。

 しかし、世の手術室は人手不足で理想論ばかり言ってられない現状であると思う。
 そこで、新人看護師が外回りを行うにあたり必要な知識をまとめてみた。
  (過去の講義資料を急いでまとめたため見苦しい部分もあるがご了承下さい)

痛みの機序

 神経細胞膜が刺激され細胞膜のNa+チャネルが開放し、大量のNa+が細胞内に移動し脱分極がおきることにより活動電位が発生する。それにより、細胞膜に沿って伝導することにより痛みを感じる。

局所麻酔薬の作用機序

 細胞膜のNa+チャネルを閉鎖し脱分極に必要なNa+の流入を阻止し、活動電位の発生を抑制し、興奮の伝導を遮断する。また、神経細胞膜Na+は蛋白であることから、蛋白結合率の高い局所麻酔薬は強力で、持続時間も長い。

局所麻酔薬の分類

  1. エステル型
  • 脂溶性が高まり、麻酔効果は増強されるが、加水分解ははやくなり、短時間作用性となる
  • 血漿中のコリンエステラーゼで速やかに分解される
  • 加水分解による分解産物のパラアミノ安息香酸:PABAによりアナフィラキシーショックが引き起こされる
  1. アミド型
  • 組織浸透性と安定性の高い麻酔薬として合成された
  • アミド型局所麻酔薬そのものによるアレルギー反応は少なく、添加されているメチルパラベン(methyl-p-hydroxy-benzonate)が強い抗原性を示し、アレルギー反応の原因となっている
  • 肝臓の酸化酵素で代謝される。肝不全の患者では中毒を生じやすい

局所麻酔薬の種類

一般名蛋白結合率効果発現持続時間極量
<エステル型>
テトラカイン76遅い中間1.5㎎/㎏
 ・効力が高く、溶媒によって低・等・高比重液を作成できる
<アミド型>
リドカイン64速い短い7㎎/㎏
 ・効果発現が早く、中毒が少ない
ブピバカイン96遅い長い2㎎/㎏
 ・効果発現は遅く、持続時間が長い。心毒性が高い
ロピバカイン94遅い長い300㎎
 ・ブピバカインより運動遮断作用が弱くdifferential block得られやすい

局所麻酔中毒

  1. 原因
  • 局所麻酔薬の血中濃度上昇
  1. 症状
  • <遅延型>
  •  中枢神経症状である刺激症状(めまい・不穏・興奮など)から抑制症状(意識消失・痙攣・呼吸停止)をへて、循環器症状(循環虚脱・心停止)を呈する
     *精神異常から神経症状、そして循環器症状に移行していくのが特徴
  • <即時型>
  •  注入後、全身痙攣・意識消失・循環虚脱
     *即時、循環・呼吸器症状が現れるのが特徴
  1. 治療
  • 患者観察を行い、症状出現時、局所麻酔薬投与中止、対症療法

局所麻酔薬アレルギー

  1. 原因
  • エステル型代謝産物であるパラアミノ安息香酸
  • アミド型バイアル製品添加薬メチルパラベン(抗菌薬)
  1. 症状
  • 紅斑・皮膚炎・不快感
  • 浮腫・気管支ぜんそく用発作
  • 循環虚脱
  1. 治療
  • アナフィラキシーショック時は、エピネフリン・ステロイド静注
  • 喉頭浮腫による上気道閉塞に備え気道確保

ブピバカインの心毒性

 ブピバカインにより引き起こされる心血管虚脱は治療困難なことが多い

  1. 原因
  •  ・心筋Na+チャネルに結合することにより、ブロック作用発揮する
  •  ・リドカインは速やかに結合し、解離する
  •  ・ブピバカインは速やかに結合するが、解離が遅い
  1. 特徴
  •  ・臨床使用量で心停止を引き起こす
  •  ・中枢神経毒性と同時、もしくは中枢神経毒性に先行して発現する可能性がある
  •  ・心室細動・心室頻拍といった重篤な不整脈を伴う
  •  ・蘇生困難

Lipid rescue

 1998年Weinbergのラットによる実験で効果が報告され、2007年英国・アイルランド麻酔科学によりガイドラインが発表された

  1. 作用機序

 血管内に投与された脂肪乳剤に血漿中のブピバカインが取り込まれ、血漿中のブピバカイン濃度が低下する。すると、心筋からのブピバカインの洗い出しが促進され心筋内のブピバカイン濃度が低下し蘇生できる

  1. 方法
  • ①ACLSの施行
  • ②ベンゾジアゼピン・チオペンタールまたはプロポフォールによる痙攣コントロール
  • ③20%イントラリピット1.5ml/㎏/minボーラス投与
  • ④その後、0.25ml/㎏/min持続投与
  • ⑤ボーラス投与は5分毎に2回、初回投与を含め3回
  • ⑥循環動態が不安定な場合、0.5ml/㎏/min持続投与
  • ⑦最大投与量は8ml/㎏

これで大丈夫!

 これで、局所麻酔のリスクについてお分かり頂けたと思います。
 しかし、明日からは頭の中にこの知識がインプットされているため、患者さんをよく観察しアセスメントしながら看護を行えば、例え急変したとしても慌てずに対処できるはずです。

 最後に、局所麻酔の手術につく際、必ず部屋の中に脂肪乳剤を準備しておいて下さい。
 あなたと患者さんのお守りに!

 最後までお読み頂きありがとうございました。

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