脊椎くも膜下腔麻酔は日常的に行われる麻酔の一つで、緊急手術等でもよく用いられる麻酔法でもある。
そして、そのほとんどで『低血圧』を経験する。
そこで、今回は脊椎くも膜下腔麻酔によりナゼ『低血圧』を引き起こすのか、その謎を解き明かしていきたいと思う。
正確には脊椎くも膜下腔麻酔というが、本ページでは脊椎麻酔と略します。
脊椎麻酔とは
脊椎麻酔は下の図のようにくも膜に包まれた袋の中に、麻酔薬を注入し鎮痛効果を得る麻酔法です。
くも膜下腔には脊髄から出る、太い後根=感覚神経(背中側)と細い前根=運動神経(腹側)があり、麻酔薬がそれぞれに麻酔作用を及ぼすことで、鎮痛効果を得ると同時に運動神経機能をブロックします。
脊椎麻酔では鎮痛効果と運動機能が消失。硬膜外麻酔では鎮痛効果のみで、運動機能が保たれる。ナゼかというと、硬膜外に麻酔薬を注入しても前根=運動神経に麻酔効果が及ばないため
本来、麻酔薬は先に細い神経に作用し、その後、ゆっくりと太い神経にも作用する。しかし、脊椎麻酔の場合は逆で、太い感覚神経が先にブロックされ、その後細い運動神経がブロックされる。
ナゼかというと、太い感覚神経は索状物の集合体であるため、麻酔薬に接する表面積が広いため先にブロックされると言われている。
適応と禁忌
脊柱管ブロックで最も基本となるのは、外科的処置を実施するのに必要な麻酔レベルが得られ、それが患者に不幸な転帰をもたらさない場合に適応となる
ミラー麻酔科学P1288から引用
一方、禁忌は
- 患者が拒否する場合
- 穿刺時に安静が保てれない場合
- 頭蓋内威圧が亢進、穿刺により脳幹ヘルニアを起こす場合
また、相対的禁忌は
- 抗凝固薬服用中で凝固障害がある場合→硬膜外血腫を引き起こす可能性がある
- 穿刺予定部位に感染兆候が見られる場合→感染が深部に波及する可能性がある
- 循環血液量が高度に減少している場合→循環虚脱になる可能性がある
そして、私なりに最も重要だと思うのは『麻酔を行う医師の経験・技術力不足』です。
どんな薬を使う?
0.5%マーカイン高比重(ブピバカイン)
アミド型局所麻酔薬で、作用発現が早く、作用時間が最も長い麻酔薬。
中毒量に達した時、心毒性が非常に強い(局所麻酔のリスクを参照)
脳脊髄液の比重を上回るように、グルコース(デキストロース)を加えて調整してあり、傾斜を利用した麻酔範囲の調節が可能
1回投与量は2〜4ml(10〜20mg)
0.5%マーカイン等比重(ブピバカイン)
高比重液と同様のリスクがあるが、穿刺注入部から薬液が移動しないのが特徴
麻酔科以外の医師も比較的安心して使用できるため、整形などの自家麻酔に用いられることが多い
麻酔範囲の広がりは緩徐で、作用発現時間が遅い、また、作用時間が長い特徴がある
0.3%ペルカミンS(ジブカイン)
アミド型局所麻酔薬で、神経毒性・中枢神経系に対する毒性が強い高比重液麻酔薬。知覚異常、運動障害、膀胱直腸障害などの馬尾症候群が発生する可能性がある。
その他、テトラカインもあるが、現在はほとんど使用されないので割愛する。
合併症は?
以上のような麻酔薬を使用し脊椎麻酔を行うと神経遮断効果が現れ、手術領域を無痛にすることができると同時に、生理的機能への影響や手技による合併症を引き起こす。
実際どのような影響・合併症を招くのか?
そして、今回のテーマでもある『低血圧』はどのようにして起こるのか?
低血圧はナゼ起こる?
最大の要因は『交感神経節前繊維』が麻酔薬により遮断されることです。
それにより、末梢血管が拡張し「前負荷」が減少。それに伴い心拍出量が低下し低血圧が起こります。
また、ブロックレベルがTh1〜4に及ぶと、心臓を支配する心臓交感神経枝をブロックするため徐脈を引き起こすと共に、更なる血圧低下を招きます。
しかし、麻酔薬投与後の仰臥位ではTh1〜4は生理的弯曲により高位に存在します。そのため、高比重麻酔液はTh1〜4レベルには到達しないのではと思いませんか?
ナゼ、麻酔薬が到達しないのに低血圧・徐脈を引き起こすかというと、感覚神経遮断レベルより2分節(最大6分節)上の領域まで交感神経がブロックされるからです。
よって、コールドテストやピンプリックテストでTh6前後だった場合、Th1〜4レベルまでブロックされており徐脈と低血圧に注意する必要があります。
これ以外にも、
- 局所麻酔薬によるアナフィラキシーショック
- 肺梗塞・心筋梗塞などの合併症
- 急激な体位変換
など、麻酔薬による影響以外での「低血圧」の可能性も考えながら、適切にアセスメントし対応する必要があるため、慎重に患者観察を行い早期発見早期対応に努めましょう。
今回は脊椎麻酔の基礎と低血圧についてでした。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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